疲れている脳をウォーキングで目覚めさせる


体で営まれている様々な作用の中で、脳に絶大な影響を及ぼしているのは、ずばり呼吸です。脳が活動するとき、酸素が必ず必要だからです。脳は呼吸や心臓の拍動はもちろん、運動や思考など、人間のあらゆる活動をつかさどっています。重さは体重の二パーセントに過ぎませんが、体の中でもっともエネルギーをたくさん使っている部位でもあります。

脳は心臓から送り出される血液の十五パーセントを消費し、活動しないで休んでいるだけでも、呼吸を通じて入ってくる酸素の約二十五パーセントを消費します。つまり、脳に酸素をスムーズに供給するためには、血液循環をよくしなければなりません。脳に十五秒ほど血液が供給されないだけでも、人は意識不明の状態に陥り、四分間供給が中断されると、脳細胞は取り返しがつかないほどの損傷を受けてしまいます。

あくびが出たり、頭がすっきりしない感じがするときは、脳細胞が活性化していない状態です。こういう状態が続くと、集中力が落ち、やる気も失せ、意識までもが膿漏となってきます。

では、疲れている脳をどうすれば目覚めさせることができるのでしょうか?

まず、脳に充分に酸素が供給されなければなりません。また、脳に充分に酸素が供給されるためには、血液循環がスムーズに行われなければなりません。血液循環をよくするためには、心臓がその機能を充分に果たしていれば問題ないと思いがちですが、心臓は自分の意思で動かせるものではありません。しかし、第二の心臓だと言われている足は、自分の意思で動かすことができます。ですから、足を動かし鍛え、心臓の働きを助けることで、全身の血液循環がスムーズになり、酸素の供給をよくし、つま先から頭のてっぺんまで健康を維持することができるのです。

人類が歩き出したことから生じたもっとも大きな意義は何でしょうか。それは文明の発達をもたらしたことです。唯一、人間だけが両足で大地を踏み、頭のてっぺんに空をのせて歩いています。動物と一番大きく区分される直立歩行により、人間は脳の容積を限りなく増やすことができました。

四つ足で歩く犬の脳は、どんなに月日が経っても変わりません。しかし、四百万年前に二本足で歩き始めた人間は、四百グラムだった脳を千四百グラムにまで進化させることができました。自分の体重をつま先において歩く直立歩行により、同時に両手を使うことができるようになり、脳を飛躍的に発達させることができたのです。

歩くために、一歩ずつ足を運ぶことは、単純な動作に過ぎませんが、その短い時間の間にも脳は実に複雑で驚くべきことを行っているのです。また、ウォーキングは表向きには確かに身体的な活動ではありますが、実際には精神的なトレーニング効果に優れた活動です。ウォーキングを通して、体が健康になることはもちろん、精神的な活力を維持できるということが、また違う魅力です。

じっと座っているときより歩いているときの方が、創意的で創造的なアイディアもよく浮かんできます。知能検査でもじっと座って生活している人より、ウォーキングなどの有酸素運動をしている人たちの方が、よりよい結果を出しているのが明らかになりました。

労働科学では、一定の時間ごとに五分ほど休憩を取ると、業務能率の低下が防げると言っています。仕事を始めたばかりのときは、体の感覚器官が興奮しながら、脳に迅速に情報を伝達します。しかし、同じ作業がずっと続けられると、感覚器官は全く興奮しなくなり、脳に送る電気信号も弱くなってきます。結局、新しい情報をもらっていない脳は、身体の各部に適切な命令を下すことができなくなり、仕事の能率が落ち、ミスが多くなるのです。

脳を上手に使いたいのであれば、やらなければならないことが山ほど溜まっていても、五十分が過ぎたら、席から立ち上がり、五分でも歩いたほうがよいのです。長時間座ったまま、モニターだけを見ていたならば、目がかすんでくるのはもちろん、肩や背中や腰まで痛くなってくるはずです。尻に錘をつけ、何時間もじっと座っていることほど、私たちの脳に圧迫を加えるものはありません。脳を上手に使いたいのであれば、一生懸命手足を動かし、エネルギーがスムーズに流れる体作りをしなければなりません。エネルギーが流れるようにすると、お風呂に入ったり、歯を磨いたりするのと同じように、脳が爽やかになり、稼働率が高まってきます。

一指李承憲(イルチ・イ スンホン)著  『ジャンセンウォーキング』 講談社出版、2008年発行、141ページより引用